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麗羅の館ⅩⅢ

第二話:今宮紗希
 
今、紗希は犯罪行為をしている。
区役所のコンピューターに進入しようとしているのだ。
ぽんぽんキーボードを打つ。ウインドウに指示が出る。
また入力し、の繰り返しだったが、ある数字を入力の後、「よし、出た・・・」と叫んだ。
その声に驚き、テレビを見ていた沙羅もウインドウを覗き込んだ。

「・・沙羅ちゃん・・どんな経歴がいい?」
「えっ、・・・どういうこと・・・」
「つまり・・・どこで生まれて・・どこの小学校を卒業して・・そういうこと」
「そんなこと、もう、決まっているんでしょ・・・」
「だから変えるのよ・・・」
「できるの、そんなこと・・・」
「・・・今のままでいいけど・・・女になれるなら・・・」

どうやら、沙羅にもそれが危険で違法な事に気付き始めた。
紗希も区役所のデータに進入できたことに有頂天になり、すっかり舞い上がっていた。
さっさと沙羅の部分を“隆夫”を“沙羅”に、“男”を“女”に書き換え、ウインドウを閉じた。
次に、自分の住んでいるところの区役所に進入しようとしていた。
しかし、こちらのほうは、セキュリティが頑丈でなかなか入り込めなかった。
二時間ほど粘ったが、だめだったので、今度は大学のほうへと、目標を変えた。
こちらのほうは簡単だった。
ものの数分で入り込み、沙羅と同様に名前と性別を変えてしまった。
しかし、違法ではあるが、たぶん見つからないだろうと思っていた。
あまりたくさん、変えたなら気付くものもあるが、一人分を変えただけである。
そんなに注意深い人間がいるとも思えない。

翌日、紗希は沙羅を伴い、区役所に出向き、沙羅に戸籍謄本をもらってくるよう指示した。
紗希が行ってもいいのだが、身分照合をさせられたとき何かと面倒なので、沙羅の学生証を偽造して持たせてあった。
30分もして沙羅が、嬉しそうな顔をして戻ってきた。そして戸籍謄本を紗希に見せるのだった。
そこには確かに、沙羅の名と女という文字があった。
紗希は早速、幸雄に携帯電話で連絡した。
幸雄は何のことわからず、頓珍漢なことを言っていた。
紗希は苛立ち、とにかくマンションのほうに来るよう言った。ぷりぷりと怒りながら歩いている紗希と間裏腹に、沙羅はにこにこしていた。
戸籍謄本の変更がどんなものか分かっているようだった。
「お姉さま、あたしこれで女になったんだよね」
笑顔で話しかけ来る沙羅には、つっけんどんな態度はできなかった。
紗希は笑顔で、
「そうよ、これで沙羅ちゃんも、男の人と結婚できるのよ」
「・・でも子供は産めないんだよね・・・」
「そうね、残念だけど・・でも養子をもらえばいいじゃあない・・」
「幸雄さんの本当の子じゃあないんだよね・・」
これには黙るしかなかった。
しかし、本当に幸雄と沙羅が結婚したら、自分は沙羅を反対にお姉さんと呼ばなければならなかった。
「年の差、19歳かぁ・・」と呟いた紗希だった。

二人が帰ると同時くらいに幸雄がやって来た。
急いで歩いたらしく息を切らしていた。顔色は青い。
部屋に入るなり、
「紗希、・・いったいどういうことなんだ?」
「これみて・・」
紗希に手渡された戸籍謄本をゆっくり食い入るようにみた幸雄は、おどろきで声にならないようだった。
「これは・・・いったいどうして・・」
「へへへへ・・・やっちゃった・・」
「役所のデーターに・・・ハッカーか・・・」
「・・・厳密に言えば、・・・じゃあない?・・・」
「細かいことはいい・・・とにかく、書き換えたんだな・・」
「・・・・うん・・・」
「たいしたことをやってくれるよ、おまえは・・・」
「・・・大丈夫、・・・」
「・・・・みつからないだろうな・・・」
「うん・・・自信ある・・・見つからない・・」
「そんな自信・・・・」
「あったほうがいいじゃん・・・」
「・・・・なんかあったら、俺が責任、とる・・・」
「・・・・兄貴、そんなに、思いつめなくったって・・・」
「・・しかし・・・」
「だいじょうぶ、あんたの妹を信じなさい・・・」
「妹って、お前、・・・自分のまで・・・」
「学籍は・・・戸籍はだめだった・・・」
「ふぅ・・・」
大きくため息をついた幸雄は、何か考え込んだみたいに、黙り込んだ。
そして、数分後、口を開いた。
「・・・沙羅・・・・もう一度転校することになるけど、いいか・・・」
「・・・・」
沙羅は、うなずくだけだった。
「よし・・・わかった、・・あしたから、学校を探す・・・まだ、新学期まで三週間ある・・・なんとしてでも探す・・・もし今後、不都合が起きても、紗希を恨むな、恨むなら、俺を恨め・・・すべて俺が、紗希におまえのことをたのんだせいで・・・」
「そんな・・・恨むだなんて・・・」
「兄貴、そんなに思いつめなくったって・・・それのそれって、おいしいとこどりじゃん・・」
「あいかわらず、お前は、物事を簡単に考えてるな・・・まあいいや、とにかく、いまは、有り難うって言っておく・・」
確かに幸雄の言うとおり、紗希にはそんなところがあった。
中学生のころから女装を始めたり、それが高じて女性ホルモンの投与や、睾丸摘出、整形などとても中学生でそんなことまで実行する人なんてそういるものではない。
ましてや、自分の思いを遂げるためには手段を選ばない、違法なことまで平気で行う。
これも富豪の家に末っ子として生まれ、わがまま一杯に育った世間知らずだったせいかもしれない。
沙羅をもう少し頼むといって帰っていく幸雄の後姿には、悲壮感さえ漂っていた。ふーとため息をついた紗希は、苦笑いをせずに入られなかった。

それからの三週間は、とみに忙しかった。
沙羅の勉強を見たり、転校をすることにはなっていたが、一応、宿題も勉強の一環ということで済ませていた。
また沙羅のオーダーメイドの服や下着のサイズあわせ、それもぜんぶで、30点以上のも数だったから、ほとんど毎日のように、外出していた。
寒い日での外出は帰ってからの肌の手入れも大変で、それだけでも1,2時間は費やしてしまう。
若さあふれる沙羅も綺麗に変わった今は、紗希と同様に手入れは怠らなかった。
これも紗希が彼女の教え込んだ賜物だった。
またお互いに女性ホルモンをまだ投与している関係上、医者にもいかなくてはならなかったが、時折顔を出す幸雄が大量の薬を持ってくるので、それを紗希も使わせてもらっていた。
しかし、その薬は紗希には少々強かった。
だが、病院での待ち時間を考えれば、それもいいかなと考えるようになっていた。

この薬を使いはじめてすでに2ヶ月が過ぎようとしていたが、効き目が早いことに気がついた。
どんどん肌が肌理細やかになってゆくのが、手に取るように分かった。
紗希は女性ホルモンを使い始めて、6年近くになるが、こんなことは初めてだった。
何か一皮剥けるという表現がぴったりだった。
また全体の身体の線が丸くなってもきた。
それは沙羅にもいえることだった。
彼女のほうは、まだ発育中ということでの変化もあったが、なにより、バストがいまだに大きく成長しているらしい。せっかく出来上がってきたオーダーメイドのブラジャーがきつくなっていると言い出していた。
試しにはかってみると90cmにもなっていた。
そのとき初めて、紗希は沙羅にジェラシーを感じた。

新学期が始まり、沙羅は幸雄のところに帰っていった。
結局沙羅は今の中学校で、転校生として、通うことになったらしい。
幸雄はもう少し紗希の元に沙羅を置いておきたいといったが、紗希は沙羅にジェラシーを感じていたので、これ以上一緒にいると沙羅のことを嫌いになってしまう。
そうなることを避けたいがため、妹のように可愛がった沙羅を幸雄のところに戻したのだった。

沙羅からの音信がとだえて、八ヶ月が過ぎた。
もう年の瀬で街では、クリスマスソングがいたるところで流れていた。
日の落ちるのもすっかり早くなり、まだ5時だというのに、あたりは暗くなっていた。
寒さも厳しくなり、着ているものもおのずと厚着になる。
豊満な身体を見せたい紗希には不満もあったが、セーターなどで喉仏がかくせるので、利点もあった。
しかし夏服のときは必ずといっていいほど、アクセントとしてや、ファッションとして首には絶えず何かを巻いて、隠していた。
それが度重なると、トレードマークとなり、巻くことに違和感を持つ者は、いなくなっていた。
冬服になっても時どき巻くのも、夏への複線だった。
自宅マンションの近くまで来たとき、携帯電話が鳴った。
男ではなく、まただからといって、戸籍上も生殖機能的にも女性ではない自分に自信がないため、友人をつくることがはばかられたので、親しい友人はいなかった。
ときどき、お昼を一緒にするくらいの付き合いの友人が2,3人いるだけだった。
この携帯の番号を知っている人は、5,6人だったので誰だろうという気持ちといたずらか間違い電話くらいの気持ちで、携帯電話を広げてみた。
別にメモリー記録してあるわけでもないので、相手の番号が出るだけだったその電話の向こうから、若そうな女性の声が聞こえてきた。
やっぱり、間違いかと思い、それなりの返答をしようと思ったとき沙羅という聞きなれた懐かしい響きが耳に入ってきた。
「沙羅ちゃん・・・・おひさぁ~~~元気・・・どうしたの?」
「おひさぁ~~、紗希お姉さま、これから、お宅に、お伺いしてもいいですか?」
彼女はいつもこのような丁寧な言葉を紗希に対して使う。
「・・・いいけど・・・なんかあったの・・・」
「あった、あった・・・へへへ・・・一緒に喜んでもらおうと思って・・」
一緒に喜んでもらおうなんて何のとこだろう、兄貴と結婚でもするのかな、などといろいろ考えていながらも、久しぶりの妹の再開を楽しみにした。

マンションのエントランスに入ると、そこにはすでに沙羅が待っていた。
しかし、沙羅の顔が変わったようだった。
声も、さっきの電話でも感じたが、すこし、高くなり、より女性っぽくなっていた。
また、あれほど大きかったバストも小さくなったような気がした。そんな疑問を沙羅に、
「・・ねえ、少し声が変わらない?・・・それに胸も・・・」
「・・・後で話します・・・・」
そういって、紗希の左腕をとり、エレベーターへと向かった。

部屋に入りエアコンのスイッチを入れた。紗希の部屋の暖房はこれだけだった。
他の暖房器具を使うと部屋が狭く感じるので、おいてなかった。
決して狭い部屋ではないのだが、気分でそう感じるのだ。
「・・寒くない?」
沙羅に気を使う。久しぶりに会ったせいかもしれない。
どことなく沙羅に対してやさしくなっている。
「少し・・・わたし、いま、妊娠中なんだ・・・」
「・・・・・・・」
紗希は聞き間違いと思い、言葉を発しなかった。
「3ヶ月・・」
「・・・・・・」
まだ、言葉にならず、頭の中の思考回路がパニックになっている。
「お姉さま、・・・喜んでくれないの・・・」
「・・・ちょっと。順を追って話しなさい・・・なんのことだか・・・」
「実は・・・・」
沙羅は、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに、話し始めた。

新学期は始まり転校生として学校の通いだした沙羅だったが転校生いじめに遇い、3,4日登校拒否になった。それを知った幸雄は、“自分に自信がないなら、本当の女性になるか”と言い出した。そのとき、沙羅は何のことが分からず、ただうなずいただけだったが幸雄は了承したと勘違いし、次の日沙羅を連れ出し郊外のあの館の門をくぐった。
そこで、いろいろなことを聞かれ、四か月後には女性に転換していた、という紗希には夢のような話をした。
色々な手術を受けたことは覚えているが、気がついたときは女性に代わったと伝えられ、半信半疑だったが、女性の性器を持った沙羅に欲情を感じた幸雄は、毎夜沙羅とのセックスにおぼれ、まさかと思ったので避妊もせずに、挿入、膣内射精を続けていた。

二週間もすれば生理が来るといわれていたがこなかったので、やっぱり嘘だったんだと思っていた。
ところが最近、吐き気をよくもよおすので、医者の診断を仰いだところ、妊娠を告げられたということだった。
幸雄には、今日電話で伝え、ここに来ることになっていた。
幸雄も常識では考えられないことなので、まだ信じていなかった。
ましてや医者である幸雄に、信じろといっても、無理だった。
ただ沙羅だけは、素直に喜んでいた。この素直さを持つ沙羅なので幸雄が愛しているのかもしれない。
年の差など気にもせずに。
そういう意味では、幸雄も学者馬鹿で、沙羅とは違った素直さを持っている。

沙羅の話が終わったころ、幸雄が来た。
本当か、本当かの連発から、まさか、まさかに代わり、信じられないとなった。
紗希は、エントランスでの疑問を沙羅に聞いてみた。声のほうは、沙羅の話がうそでなければ、なんとなく分かる。
「ねえ、沙羅ちゃん・・おっぱい、小さくならない・・??」
「うん、あのね、自分で考えたんだけど、整形の後のおっぱいだと、いつも、ブラはオーダーでしょ、・・それだと、もったいないし、・・・家計にも響くから・・・シリコン、取っちゃった・・・いまは自前だけのおっぱい・・」
「家計、やり繰りしているの?」
「うん、一応、幸雄さんから任されてるの・・」
「じゃあ、バーゲンにもいくんだ・・」
「うん、・・少しでも、安いものを買おうと思って、何軒もみて回るんだけど、結局元の店に戻っちゃうことが多いけど・・」
「そう・・えらいわね・・」
「えらくなんかないよ・・身寄りのないあたしをこんなにも愛してくれてるんだもの・・・・それに、子供もできるし・・・これから、お金、一杯かかるから・・」
「兄貴・・結婚、遅くなっててよかったね、こんな良い子にめぐり合えて・・・大事にしなくっちゃあ・・」
「ああ、わかってるよ・・・」
幸雄は照れていた。しかし、沙羅はまだ、14歳、早生まれの3月が誕生日だった。
結婚できるまで、一年以上もあった。
7月出産予定だから、どうするつもりか聞いてみた。
返事は母に頼んでみる、とのことだった。
なるほどと思った。父でさえ牛耳っている母を味方につければ、と思った。
紗希も母には随分助けられた。

二人は帰っていった。これからいろいろな問題も出てくるだろう。
なにしろ、高校生が子供を産むのだ、周りの目もある、眉をひそめる人もいるだろう、兄には兄の立場もある、こんなことを考えていたら、急に心配になってきた。
ちょくちょく顔を出さなきゃとおもったが、うるさい小姑のだけはならないと自分に誓った。

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