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麗羅の館ⅩⅦ

第二話:今宮紗希
13

ホテルの前に着いたのは、あの高級外車だった。
しかも運転手つきだった。それはその人の彼に対する応対ですぐ分かった。
津村が携帯で車を呼んでいたのだった。来た時間から察するに、近くで待たせていたらしい。
ということは今日の津村は紗希とのセックスは考えてはいなかったように思われた。
紗希を車に乗せたあと、彼はベルボーイに、何か渡した後、車に乗り込んだ。
それはプラスティックの棒についた鍵のようだった。
やはり、一応ということだったらしい。
車の中では運転手もいることだったし、彼は無言だった。何かを言いたげではあったが。
その沈黙は紗希のほうから破った。
「あの・・津村さん・・・お願いがあるのですけど・・・」
「・・・なんでしょう・・・たいていのことは聞きますよ・・」
「・・実は・・門限が過ぎていまして・・たぶん・・父が、・・・マンションのエントランスで待っていると思うのです・・・」
「・・いいですよ・・僕が、きちんと謝ります・・」
「・・そうですか・・・ありがとうございます・・・」
「いいえそんなことぐらい・・・引き止めていたのは・・・僕のほうですから・・」
「・・・でも・・・わたしのお願いは・・少し違っていまして・・・」
「???・・どう違うんですか・・・」
「・・はしたないとお思いにならないでください・・」
「・・はい、思いませんよ。そんなこと・・・」
「・・・あの・・・ずっと以前からのお付き合いということで、・・・結婚を前提にということで・・・嫌でしょうね、こんなこと・・・忘れてください・・」
切れ切れの紗希の言葉に津村は、いつ口を挟もうかと落ち着きがなかった。
「とんでもない・・こっちからお願いしようと、思っていたことろです・・じゃあ付き合ってもらえるんですね、僕と・・・」
「・・・あの、今夜だけの言い訳というわけにはいかないんですよね・・・」
「当然です、僕も男ですから、いったんお父さんの前で出した言葉に責任を持ちたいのです・・」
「でも、・・わたしで、よろしいのですか・・ほかに別の方が・・・」
「いませんよ、そんなもの・・あなたは僕のいってことを忘れたのですか・・
僕は一年間あなたを探したんですよ・・今度は一ヶ月もかけて、電話番号をみつけたんですよ・・・」
津村の言葉が熱を帯びてきた。
紗希は結婚までのことは期待していなかったが、成り行き上、後には引けなくなっていた。
彼女にしてみれば、今夜だけ父に言い訳できれば、位の軽い気持ちだった。

車はゆっくり紗希のマンションのまえを通り過ぎた。
そう運転手に頼んでおいたのだ。
津村と前のシートの間越しに父の姿を見た紗希の顔が曇った。
それを感じ取った津村は、前と後ろの座席に仕切りを下ろし、窓にはシールドを掛けた。特注らしい。
密室になった後部座席が異様な雰囲気になったとき、津村は紗希の唇を奪った。
紗希も待っていたかも様に受け入れ目を閉じていた。
すぐに彼の舌が入り込み、舌と舌が絡み合い、うっとりとする紗希がいた。
頭の芯がしびれ始め、自分の意識が遠のくのを感じた彼女は身体を津村にあずけていた。
ほんの数分の出来事だったが、紗希にはとても長く感じられ、車を降りたとき服の乱れを直すのも忘れたほどだった。
津村に言われて気づいた紗希は恥ずかしそうに、スカートの裾を払い、エントランスへと向かった。
後ろに津村を従えて。
エントランスで父は怒っているような顔をしていたが、紗希の姿を目にしたとき、やっと表情が緩むのを見てとった紗希は、ここぞとばかりに、津村を紹介した。
その彼を頭のてっぺんからつま先まで眺め、敵意をむき出しをしていた。
しかし、紗希との打ち合わせどおりに伝えた津村は、名刺を父に丁寧に渡したのであった。
そういえば、紗希は津村の素性を知らなかった。
ただ運転手つきの外車が乗れるほどの裕福な家庭環境であることぐらいしか知らなかった。
その父の格好が崩れるのをみた紗希は、どうやら津村は父には合格点をもらったようであった。

その夜は津村も父も帰っていったが、翌朝早く母から呼び出された。
たぶん父の指しがねと思ったが、昨夜の今朝というのも落ちつきがないと父を蔑む気持ちで一杯だった。
両親のところという軽い気持ちで、ほとんどノーメークで来た紗希だったが、女性になった最近はよくノーメークで出かけていた。
ただ紫外線除けだけは、しっかりして。
これは肌休めの意味と、若々しい肌は、このままでも恥ずかしくないという自信からでもあった。

両親の家に着き、ルージュもつけていない紗希の顔を見た母はあわてて、自分の部屋に彼女を連れて行き、鏡台の前に座らせた。
「・・・ちゃんとお化粧をしなさい・・お客様が見えるから・・」
「今日は肌休めだから、しない・・」
いきなり母の則されたことに、むくれていた紗希に母は、
「じゃあ、ルージュだけでも、しなさい」
いつもとは打って変わった命令口調の母に反発していた紗希は、しぶしぶながらルージュだけは塗り始めた。
また今の紗希はそれだけで十分だった。
若く白い肌にピンクのルージュがよく似合っていた。
これ以上のことは何もしなくてよかった。
それを確認して、母もそれ以上は言わなかったのだ。

塗り終わった紗希は台所に顔を出したが、沙羅となにやら忙しそうにしていた。
そして、彼女をみるなり、
「今日はあなたはいいの・・・それにしても、その服は・・・」
昨夜の服が気に入っていたので、そのまま着てきたが、母は、
「昨日のままでしょう、その服は・・」
「分かる?結構気に入ったんで、また着てきちゃった・・」
「スカートの後ろにしわが入ってるわよ・・・それに今日のお客様、あなたに用があって見えるのよ・・」
「あたしに・・誰だろう・・・」
心当たりのない紗希は怪訝そうな顔をしていた。
「いつもお洒落してくるから、安心してたのに・・・わたしのじゃあ・・だめか・・沙羅ちゃん、悪いけど、あなたの、ちょっと貸してくれない?」
「どうぞ、お使いください、・・・でも、あたしので大丈夫かしら・・」
二人目の子供が安定期に入った沙羅も、大きくなり始めたお腹を抱えながら、忙しそうに動いていた。

「・・・そうね、・・ちょっと、幼い感じもあるけど・・昨夜のと同じよりはいいでしょ・・」
一番大人っぽいものを選んだが、それでも紗希には幼い感じがしていた。
スカートのウエストのサイズが大きく、ベルト部分が腰にまで下がっていた。
なるほどこのサイズなら既製品はたくさんあると紗希は思った。
確かにスカートまでオーダーしていたのでは、金銭的に辛いものがある。
幸雄の給料内でもやり繰りを考えた沙羅は、すっかり主婦になっていた。
総じて今宮家の人々は金銭感覚に疎い。
その中にあって沙羅は貴重な存在になっていた。
両親と過ごし始めた今も、母と一緒に買い物をするが、そのとき主導権を持つのはいつも沙羅だった。
そんな沙羅だったから服のほうも、幼く地味なものだった。
しかし沙羅にとっては一番のお気に入りだったらしく、恨めしそうな顔をしていた。
唯今はマタニティーだったので、着ることはなかったが。
そういえば、母は紗希がヘヤースタイルを変えたことについて何もいわなかった。
父が教えたのだろうかと、呑気に考えていた。
母がいなくなった台所では相変わらず沙羅が忙しそうにしていたので、紗希は手伝うことにしたが、沙羅は“今日、お姉さまは主役だから”と手伝わせなかった。
『誰なんだろう、みんな主役、主役って言うけど』
そのうち玄関のほうがざわつき、来客があったようだった。
紗希は沙羅に手伝いを断られすることもなく、食事テーブルの椅子に足を投げ出し、だらしなくしていた。
そのとき母が入ってきた。その紗希を見るなり、
「これ、何です、その格好は」
と、一括したあと、
「お客様が見えましたから、紗希、あなたがお茶を運びなさい」
といいつけた。
紗希はすでにどこに何があるのか知っていたので、抹茶を取り出し、言いつけどおり四人分立てて、お盆に乗せ応接室に通ずる廊下を歩いていた。
来客が誰か知らされないまま、期待と不安の入り混じった面持ちで応接室へと向かっていた。

この家の応接室は全部で4室ありその中の和室の部屋と伝えられていた。その部屋の戸の入り口で膝たちになり、両手を添えてゆっくりと、戸を開けた。
そして、“いらっしませ”と挨拶し、お尻のほうかは身体をいれ、うつむいたまま、外に置いたお盆を持ち上げ、来客用のテーブルにすわぅたままの姿勢で、少しずつ動きゆっくりとした動作で、お茶を客の前に出した。
ここまで客の顔を見ないよううつむいたままだった。
これが母の教わった和室でも、来客にお茶を出すときの作法だった。
そしておもむろに顔を上げる。
このとき客の顔を見た紗希は、飛び上がらんほどに驚いた。
なんと客というのは、津村だった。
後はその両親らしい。
父の顔を見ると、ほほえみながらも厳しい表情で、紗希を見据え、
「これが、娘の紗希です」
と両親に紹介した。
紗希はどう答えていいのか分からず、ただ三つ指をついて挨拶するだけだった。
「これは、これは、綺麗なお嬢さんで・・紗希さん・・じつは、良樹があなたとどうしても結婚したいと言い出しまして・・」
紗希は不安そうに良樹を見た。彼は彼でにっこりうなずくだけだった。
『まだ二回しかあっていないのに、結婚なんて考えたこともないわ』という心のつぶやきは父の手前、言い出せなかった。

紗希の思いとは別に、話はすでに挙式にまで発展していた。
困った顔をさせることも出来ずにいる紗希は、ただうつむいているだけだった。
頭の中が真っ白な状態の紗希に、父は、
「実はな、紗希、この津村さんは、わたしの友人で、学生時代はよく勉強を教えてもらったものだ・・しばらく東京と長崎で音信不通になったが、こうしてまた再会することが出来た、これも何かの縁だ・・・この結婚話は、進めるぞ・・」
それは紗希にとって、父からの初めての命令だった。
『ううん・・・結婚か・・・いつかはしたいと思っていたけど、もう?・・・』
だとか、
『まだ20歳よ、あたし・・・』
『どうしようかななぁ・・・でもあの人ならいいなぁ』
『あの人の子供なら、欲しいなぁ』
とだんだん、良樹への思いが募っていった。
両親達を実家に残し、紗希は良樹とデートに出た。
その途中、部屋に寄り、服を着替えていた。
外では良樹が待っている。
彼を部屋に入れてもいいのだが、三回の出会いではまだ早いと紗希は感じていた。
そもそも結婚なんて考えてもいなかったことだった。

服をそこそこに気に入っているものに着替え、バッグは昨夜のままで持ち出していた。
化粧はしていない。嫌われて、断ってほしいという気持ちと、このまま付き合いたいという気持ちのいり混じった複雑な思いだった。
ノーメークは嫌われたい、大きく開いた襟と、太腿も見えるスリットの入ったミニスカートは、このまま抱かれ彼のものになりたいという、現れだった。
彼の運転する外車の助手席に乗り込み、大きく開いたスカートのスリットは、白く肌理細やかで長い脚、太腿を良樹に見せ付けていた。
下着は変えていず、朝つけたままの黒だった。
その色が白いブラウスを通して透けていた。
ショーツも黒だった。下着に関しては妖艶さを醸している。
左ハンドルのこの車なら手を伸ばせば、手の届く位置に太腿はある。
しかし、良樹はじっと我慢しているようだった。

箱根へのドライブは快適で、戸籍の問題で免許を取れなかった紗希には、車での移動は嬉しかった。
途中で立ち寄るサービスエリアや高速を降りた後の、喫茶店での彼との会話でだんだん打ち解けていくのが紗希自信感じていた。
良樹も雄弁に話し、紗希を飽きさせることはなかった。
色々なところに寄り、時間調節をした良樹は夕方の午後6時ごろ、予約しておいたホテルに車を寄せていた。
ベルボーイに車を片付けさせ、支配人の案内でレストランに入った。
ここでは自分達の予約だけで、貸しきるようなことは避けていた。
そのようなことは良樹自身嫌いだったし、紗希も嫌いな様子だったので、彼女の嫌うことは避けた。
食事もお酒も終わり、帰ることなく、ここに泊まるらしい。
カウンターで良樹はキィーを二個もらってきた。一つを紗希に手渡す。
しかし紗希は酒のため心が高揚しているせいか、それを押し返して、恥ずかしそうに顔を赤らめ、うつむいた。

部屋に入り、右手で顎を上げられた紗希は目をとじ、良樹の唇を待った。
昨夜のような熱いものを感じ、爪先立ちの紗希は崩れるように良樹にもたれかかったのだった。
良樹の左手は紗希のブラウス越しにブラジャーのフォックをはずし、右手はブラウスのボタンをはずしていた。
上半身のはだけた紗希の肌は良樹の目にさらされ、首元にキスをしながら、ブラジャーのカップを大きな乳房の上に押し上げ、乳首をいたぶっていた。
あっという間の出来事だった。
紗希の性感帯を巧みについてくる良樹の愛撫は紗希を官能の渦へと誘い込んでいた。
良樹に抱きかかえられベッドに横たえられた紗希の官能は高ぶり、喘ぎ声を押し殺そうとしてもその快感に知らず知らずのうちに漏れてしまっていた。
淫楽の頂点で発する紗希の喘ぎ声に良樹は、更なる愛撫を続け、唇は乳房、乳首を愛撫し、右手ではショーツを脱がせ、まだ男を知らない出来立ての恥部に触れていた。
そして気が付けばピンクのスカートはとっくに脱がされていた。

いつの間にか紗希の全裸は、官能で反り返り、また喘ぎ声も憚らないほど大きくなっていった。
漆黒の草むらは愛液で濡れ、光を放っている。
その草むらの中に隠れたクレバスに良樹の舌がはいっていく。
その舌は起用にそのクレバスの中で動き、さらに愛液をほとばせるのだった。
アヌスでのセックスしか知らない紗希にははじめての感覚だった。
大きく開かされた脚は、良樹の両肩に担がれたような格好になり、彼の目の前には紗希のクレバスがあった。
その濡れたクレバスに良樹のペニスの先端が当たり、ゆっくりはいってくる異物に紗希は痛みを感じた。
「・・いた・・いたい・・・」
紗希の顔は苦痛にゆがむ。
それでも良樹のペニスは、紗希の中に挿入されてゆく。
それが半ばまで入ったとき、良樹のピストン運動が始まった。
突き刺され抜かれそのたびに、痛みを感じている紗希だった。
下半身のほうが音を立てている、くちゃくちゃ、ぱんぱん、・・そんな音がなりやんだ。
紗希の中では熱いものを感じる。良樹の坑内射精だった。
そのときの紗希は、彼が避妊していないことなど知る由もなかった。

ほんの数十分だったが、痛みのため、紗希には何時間にも感じられた。
ずぼっと抜かれたペニスのあとからは、精液に混じった破瓜の血が見られた。
“やっぱりバージンだったんだ”の良樹の声もうつろに聞いていた。
われに返った紗希は、良樹にシャワーを薦め、浴びているうちに、血の付いたシーツを取り去り、彼の目に触れないところに隠した。
恥部から流れ出る血混じりの精液を何度もティッシュでふき取りながら、はじめて良樹が避妊していないことに気付いた。
そして良樹と入れ変わるようにシャワールームに入った紗希は、出来るだけ彼と顔を合わせないようにしていた。避妊しなかったことを、怒っているわけではない。
自分のすべてを見られ、あらぬ声を上げた自分が恥ずかしかった。
濡れた髪はそのままで、胸から下半身にはバスタオルが巻かれていた。
恥ずかしそうにうつむきながら良樹のほうに近寄って良く紗希だった。
その紗希を抱きかかえ、ふたたびキスをする良樹だった。
また良樹の愛撫が始まった。
先ほどのリプレイのようだった。
二度目の挿入は初めに比べ痛みは少なかったが、バージンを失ったすぐあとでは、まだ痛みはある。
しかし耐えられない痛みではなくなっていた。
今度は初めより激しいピストン運動だった。

そして次はもっとその次はさらにで、三日間このホテルに滞在していた。
その間いちども、食事以外はホテルの外に出ることはなかった。
何回良樹のものを受け入れたんだろうと思っていた。
紗希は返ってきて、自分の部屋のシャワーを浴びながら、少し大人になった自分の恥部を眺めていた。
セックスに明け暮れた三日間、日課のスキンケアを今まとめて行うかのようにしていた。

三日目のセックスでわずかに感じた官能を思い出し、余韻に浸っていた。
先ほどまで一緒だった良樹とは、車の中で肉体関係を持ったこともあり、うちとけ、かいがいしくする紗希を彼は、見直していた。
母に連絡しなければという気持ちも、なぜか恥ずかしく感じられた。
父にいたっては、顔も合わせられない状態だった。

処女を捧げた後、一週間は食事、セックス、2時ごろの帰宅という生活が続いた。泊まりはなかった。
その度重なるセックスに、紗希の官能は磨き上げられていった。
夏休み中だったので紗希は、日中は惰眠をむさぼり、夕方でかけるという生活だった。

その間に裁判所からの性の変更許可通知が届いていて、早速区役所に届け出た。
その区役所で受け付けてくれた女性に、“男だったという経歴を削除できませんか”問い合わせたところ、彼女は“そうですね、結婚相手には知られたくないでしょうから、削除しておきます”というあたたかい言葉だった。
別に知られても、医者の診断ミスで通用するが、削除できるならそのほうが位の気持ちだった。
母とも、連絡はしたがセックスのことまで、こまごまとは、話せなかった。
しかし母のほうも三日間一緒だったことから、とっくに察していた。
そして彼の両親と挙式の話しをしているといっていた。
紗希の卒業を待って婚約中にするか、大学中に籍を入れるかのことだけになっていた。
当人達の相談なしにそこまで話は進んでいた。
父親同士が友人なら何の問題もなかった。

紗希はまた良樹のものを受け入れている。
もう一ヶ月毎日連続してである。
最近は紗希の部屋で行うことが多く、朝を一緒に迎えることが多かった。
今朝も良樹のため朝食を用意している。
ただ最近、セックスにマンネリを覚え始めていることも事実だった。
良樹の避妊しないでの坑内射精は当たり前になっていて、沙羅のようにいつ妊娠してもおかしくない状態だった。
その沙羅もすでに一人目を出産し、二人目をお腹の中に抱え、育児に忙しい毎日を送っていた。
二学期はもう始まっていたので、日中は母が面倒を見ている。
無事女の子を産んだ沙羅は、母としても妻としても、また学生としても立派に勤めている。
そう思うと今の自分がいかに自堕落とは思わないが、自由奔放に生きていることに、恥ずかしさを覚えることがある。
良樹の実家にも、数度となくとばれ、それなりの接し方はしてきた。
彼は一人っ子だった。
そのため、結婚したらたぶん一緒に住むことになるだろう。
そのとき、自分は沙羅のように、彼の両親に甘えられるだろうかという疑問も湧いていた。
“マリッジブルーかな”などと思う今日この頃だった。
朝食の支度をしている紗希の後ろから、良樹が抱きついてくる。
後ろから服越しに乳房を揉んでくる。
スカートを捲り上げ、ショーツを割り裂き、手を進入させてくる。こんなことの毎日だった。
一人でいるときの紗希は、裸でいるが、良樹がいるときは必ず服は着る。
また、朝も必ず彼より早くおき化粧をし、素顔を見せるのはセックスのときだけだった。
いろいろな思いの中、あるとき生理の来なくなったことに気が付いた。
二回しか訪れていない生理だがカレンダーに印をしているので、次の生理日は分かっていた。
それを二週間過ぎても来なかった。
もしやという思いはだんだん膨らみ、良樹に伝えようか迷ったが医者の診断のあとでも、という気になった。
医者の診断は妊娠二ヶ月だった。
まだ二ヶ月という気もある。
妊娠は幼い頃よりの願望でもあった。
絶対無理だと思っていたことだった、元男が子供を産むなんて。
しかしまだ実感はない。沙羅のように出産するまでそれは感じないかもしれない。

帰ってきた良樹に伝えてみた。
彼は驚きまた大いに喜んだ。
そしてまず紗希の両親のところに電話を入れていた。
その喜びの顔はなんともいえない顔だった。
そして自分の両親のときはなぜか恥ずかしそうにしていた。ここのところがよく分からない。
同じように喜べばと紗希は思った。
そこからは、結婚話は急速に進んでいった。
式はお腹の大きくならない二ヵ月後、新居は、良樹の実家。
といっても広大な彼の実家の邸内に新居を立てるということだった。
突貫工事で金に糸目をつけない注文に答えるだけの建築会社などあるのかと思っていたら、良樹の父の会社の関連企業にこのとんでもない仕事を引き受ける会社があった。

そんな話をしていくうちに気付いたことだが、良樹の父は、日本一の、また世界でも有数の大企業を経営する総合商社の会長だった。
その資産は今宮家などとは比べ物にならないくらいで、毎年納税額が日本一だった。
通常この手の会社はサラリーマン社長が勤めるが、一族会社である“インターナショナル・コンツェル”の株を過半数所持しているため、良樹はすでに専務になっていた。
ゆくゆくは社長、会長だった。
良樹の勤め先など気にも留めなかった紗希は、あらためて良樹を見直したが、驚きはしなかった。
日本一だろうが世界有数であろうが良樹は良樹、自分の前ではすべてをさらけ出す普通の青年だった。
彼の父も紗希の父も今はほとんど隠居状態だったことには違いない。
暇に任せて式場選びをしていた。
また紗希の誕生日の前日に入籍した。
紗希の19歳のこだわりだった。いろいろなことのあった19歳だった。
幼い頃からの紗希の夢は今かなえられようとしていた。
“麗羅の館”のおかげで。
沙希変身7


麗羅の館ⅩⅥ

第二話:今宮紗希
12
 
“麗羅の館”退院後、二か月経った今、“香月総合病院”に来ていた。
今日この医院にきたのは女性であることの証明書を、作ってもらうためだった。
沙羅のときは、紗希が勝手に戸籍を変えてしまったので、こんな必要ななかったが、紗希の場合はこれから、この診断書を家庭裁判所に持って行き、公に認めてもらわなければならない。
少々面倒だが、これですら、今の紗希には楽しかった。
怪訝そうに首をかしげていた医者は、診断書に女性と書かざるをえなかった。
退院後、一か月で生理は来ていた。まだ男を知らないその部分に生理ナプキンを当てるときは感動だった。
まさか自分にこういう事態が起こるとは思っていなかった。
ニューハーフ時代、痴漢よけにしたことはあるが。
しかし聞いていた以上に憂鬱な日々だった。
頭痛はするし、下腹部のほうもしくしくするのだった。母に聞いたら、たぶん生理は重いものだということだった。
しかし、それも憧れていた女性の身体を、無理やり手にした報いと楽しむことにした。

家庭裁判所に書類を提出した紗希は、あとは通知を待つだけだった。
その日はそれから、あの津村良樹に出会った場所に行ってみた。
あれ以来彼に連絡していない。
性転換などで忙しかったこともあったが、けっこう好感を持ったので、今度あったときにはおそらく、セックスまで至るだろうと思っていたし、自分が軽い女とみられたくないという気もちもあった。
これは鮫島とのとき、あまりに簡単の抱かれてしまったときの反省からでもあった。
あの時はただ好奇心から、自分から誘惑していた。
しかし彼と別れ、半ばやけ気味に特定多数の男とセックスをしてが、いまは大切なバージンを捧げる相手の吟味には、慎重になっていた。
その相手が津村なら最高だし、間違って子供が出来てもいいとまで思っていた。
ただ生理は訪れたが、本当に男を受け入れることが出来るかの不安もあった。
乳房など感じやすくなった性感帯をいたぶってのオナニーはしたが、指やバイブルーター、異物などを女性器に挿入することは避けていた。
まかり間違って処女膜の喪失にでもなったら、後悔する。
そんな思いから臆病になっているのだった。
その日、津村に会うことはなかったが、あの日の彼を思い出すたびに会いたい気持ちが募っていくのだった。

部屋に戻り、買ってきた洋服をクローゼットにしまいながら、吊るされている他の洋服を確認している。
スタイルはそんなに変わっていないから、下着は今までのものでよかったが、全体的な骨の移植で身長が低くなりミニ丈のワンピースなどは、膝下になってしまうものもあった。
またオーダーの服もウエストが5cmも細くなったのとウエストライン、ヒップラインが上がっていたので合わなくなっていた。
試しに着てみるが、自分のイメージとはあわなかった。
三時間掛けて、すべてを着てみたが100着ほどの服は、20着ほどしか残らないだろうと思われた。
以前にもこんなことがあったが、そのときと同じようにリサイクル店に持っていこうと思っていた。
ただ彼女のような素晴らしいスタイルの女性は、そんなにはいないとも思われたが。
それに、すべてが高級ブランド品だった。
オーダー品も直営店での仕立てだったので、ブランドのタグがついていた。

東京に住み始めた母からの電話が、そろそろ来る時間だった。
母は毎日、決まった時間に電話してくる。部屋に据え置きの電話だったので、紗希はその時間までには部屋に居なければならなかった。
遠まわしの門限規制だった。
ニューハーフのときはこんなことはなかったが、性転換と共に始まったことだった。
そのことには、父の影を感じざるをえなかった。
いきなり娘を持つ父の感情には、浩三も戸惑い、うろたえているようであった。
たいした話はしない。
ただ居ることの確認程度だった。
一度だけ一時間ほど帰りが遅いときがあった。
そのときには、紗希が帰ったときすでに、浩三がエントランスで待ち受けていた。
そして、彼女の姿をみるなり、ほっとしたような顔になり、“近くまで来たから”と言い残し、部屋にも入らず帰っていくのだった。
紗希の記憶では、父は彼女の部屋で二人きりになったことはなかった。
これはニューハーフのときでも同じだった。
故郷のマンションに居たときでも、来るのは玄関までで、部屋には入らなかった。
そのときの紗希は、父は自分のことを認めていないと思っていた。
しかし、母から陰の協力を聞いたとき、自分と一緒に居ることに照れを感じるのだと感じた。

母からの電話は、午後八時だった。
いまどきの中学、高校生でもこんな時間に帰らない。
少々うんざりした気分になっていたことだけは確かだった。
『これじゃあ、男も出来ないじゃん』
その候補者が居るだけに、イラつくのだった。
もし津村と会い、セックスにまでに至ったら、どんな言い訳をしようかと考えていた。
また津村以外の男性でも同じだった自分ももうすぐ20歳だから、もう少し自由にして欲しいとも思ってもいた。

津村に会うためではないが、少なくなった洋服を増やすため買い物に来ている。
ニューハーフのころからの癖だったが、紗希は出かけるとき多くの中から悩んで、悩んで着る服をえらばなければ納得しない性質らしい。
そのため、クローゼットは絶えず一杯でなければならない。
だから時にはたくさん買いだめすることがある。今日がその日だった。
普通の金銭感覚では痛いものがあるが、幼少のころより金銭的には無頓着で、というより絶えず欲しいものは自由に手に入れられたので、金銭感覚はなかったといってよい。
今もゴールドカードで支払いを済ませていた。
このカードもある一定額が絶えずはっていて、彼女が使うと足りない分はいつも間にか、振り込まれている。
たぶん浩三の差し金だろうが、幼いころからそうだった。
しかし、これは末っ子だけで、他の三人は、毎月小遣いをもらい、その中でのやり繰りだった。
もちろん同級生に比べればかなり高額だったが。

ブラウス、Tシャツ、スカートなどを買った紗希は、合うサイズがないのをなげいていた。
上物は何とかなるが、スカートのサイズは既製品で合うスカートはなかった。
サイズが小さいというのならまだしも、大きいものばかりだった。
合うのは子供服になってしまい、デザイン的に幼すぎた。
また最小のものを選んでも、大きい腰に引っかかるようになり、せっかく長くなった脚の長さを表現し切れなかった。
今日買ったスカートも大半がサイズ直しで持って返るのは、2着だけだった。
またワンピースはすべてオーダーで出来上がるのは10日後だった。
なじみの店ではなかったが、高額の品を大量に購入した紗希を丁寧な扱いで応対し、また紗希もそれに見合うだけの買い物をした。
オーダーの品々も20点を超えていた。
ワンピース、ジャケットなど、アンサンブルはウエスト、ヒップラインがあわなあった。また、90cmというサイズのバストも合うものはなかった。
沙羅の言っていた言葉が思い出された。
紗希と同じようなプロホーションの沙羅も今はマタニティーだから感じていないが、おそらくこれから悩むだろう。

部屋に帰りクローゼットに買ってきた服を丁寧に収納する。
これが紗希の買い物後のパターンだった。
着られなくなった、また気に入らない服はすでに、一つにまとめ段ボール箱に入れていた。
宅配便を呼び、リサイクル店に送る予定だった。
別に買い取ってくれる値段には執着はしていなかった。
ただ箱詰めと発送票を書くだけで、不要の服が片付くことの簡単さを選んだだけだった。
3箱のダンボールを玄関脇に積み、伝票を添えておいた。
これで明日朝、電話をすれば、ことは足りる。
そんな時電話が鳴った。また母かと思い、
「はいはい、可愛い娘はかえっていますよ」
と独り言を言いながら、受話器を取った。
しかし、受話器の向こうは、やたら弾んだ男の声だった。
こちらが声を出す前に向こうから話しかけていた。

「もしもし、今宮紗希さんですよね・・」
「・・・はい・・・」
「やっと見つけた・・・僕、津村良樹です・・あのお忘れですか・・・」
勿論覚えている。しかしどうして、この電話番号が、という疑問がすぐ湧いた。
紗希は彼との別れ際、電話番号を聞いてきたが、携帯電話の番号はおろか、ここの電話番号も教えなかった。
「・・津村さん・・・ああ、あのときの・・・」
「よかった、覚えていてくれたんですね・・」
「・・・今日は何か・・・」
紗希はわざとつっけんどんな態度で応対した。
「あなたからの連絡を待って板の出すがなかなかもらえないので、いろいろ探しました」
気に入らない相手なら、“それは、それは、ごくろうさま、ではさようなら”と電話を切り、翌日番号を変えるのだが、また今までそうしてきた紗希だったが、今日は違っていた。
「・・・すみません・・ちょっと忙しかったものですから・・連絡が遅れました・・
でも、あまり間が開いてしまいましたので、もうわたしのことなどお忘れになされたかと思いまして・・」
「とんでもありません、連絡を今か今かと待ち焦がれていました・・」
「・・すみません・・」
「・・・早速ですが・・明日にでも会っていただけませんか・・」
「明日ですか・・あしたはちょっと・・・10日後では・・」
「そんなに待てません・・明日でなければ、あさって・・」
「・・・随分、性急なんですね・・」
紗希の心は決まっていたが、どうせならオーダーの服を着ていきたいと思ったからだ。
「すみません・・・やっと探し当てたものですから・・」
「でも、わたくし、約束したら逃げませんわよ・・」
やたら丁寧な言葉使いだが、紗希は外ではこのように話していた。これは女装を始めていたころから、代わっていなかった。

結局、津村に押し切られ、明後日会うことにしたが、実際のところ、明日は宅配便に荷物を渡した後、両親のところに行き、一泊してくる予定だった。
その帰りにリサイクルショップに寄り、受取金の振込先を伝えるつもりだった。
紗希は予定の変更を組み替えていた。
両親のところでの一泊までは変えないが、リサイクルショップへはFAXで済ませようと考えた。
両親のところでの一泊は、母から、父が心待ちにしていることを聞いていたので、変更できなかった。
また、津村に会うときには一度、美容室に行っておきたかったので、彼の会う時間を遅くしたのだった。
しかし、一度部屋に帰らなければ、とか下着はとか、洋服はとか、いろいろ考えると、すべて今決めておかなければと、さっき綺麗にしまったクローゼットの中のものを引っ張り出した。
『う~ん、もう、・・だから、10日後がいいっていったじゃあない』
などとぶつぶつ言い出していた。
こういうときの紗希は、必ずイラついている。
どこかの歌のあった歌詞のようだった。

結局、紗希決めた服は、黒のニットのTシャツ風、Vネックで大きく開き、裾に太目の白の帯のはいった上物、ボトムは黒のプリーツスカートのミニ、こちらも裾に白い帯が入っていた。
白い帯で絶妙なバランスで入っているため、上品で活動的な感じを醸していた。
下着はニットのシャツを間から、透かして見せるので黒にした。
アウターは上品、インナーは、妖艶という姿だった。
また、脚部分はもうすぐ梅雨も明ける時期だったので、素足に決めた。
靴も黒のサンダルで、10cmのハイヒールだった。
バッグはかなり迷ったが下着の替えや、化粧直しのためにいつも持ち歩いているものに加えて、スキンケアのための化粧水も持っていこうと思ったので、当たり障りのない大き目のブランド品を選んでいた。
ピアスやブローチ、ネックレスなども服に合わせて、選び鏡台の隅に並べ、満足気に微笑んだ。
父の喜ぶ顔を存分に見て、自宅の近所の行きつけの美容室に来ていた。
彼女担当の若い美容師が、“いつも通りでよろしいですか”と問いかけてきた。
確かに紗希はここ数年、ヘヤースタイルを変えたことはなかった。
その言葉に反抗するわけではないが、女性に代わったことだし、気分転換の意味もあり、ふと変えようと思った。また前回とは違ったイメージの自分を見せるのもいいかな、という軽い気持ちだった。
その美容師の技術のよいことは分かっていた。
容姿のほうは必ずしも美人とはいえない。
しかし、どことなく愛くるしく可愛い感じの子だった。
といっても20歳の紗希より2、3歳上のような感じだった。
突然の思いつきに紗希は、“劉詩涵風にして”と頼んだ。
また彼女は、この中国のタレントの容姿に憧れを持っていてニューハーフの時から、彼女を意識して整形していた。
また”麗羅の館“でも変身の時でも彼女のようにしてくれるよう頼んでいた。
麗羅はそれでは個性が出ないといっていたが、彼女はきちんと紗希の言うとおりに変えてくれていた。
といっても、もともと整形でそのように変えていたので見た目は大して変わっていない。
またそのほうが周りから、あからさまに変わって事をしられずにすむ。
美容師の典子は、“劉詩涵”と聞き、怪訝な顔をした。
「わたしも、常々そう思っていました。だって紗希さん、そっくりなんですもの。リュウ・シーハンさんに・・」
そういって紗希の言葉に賛同してくれたが・・・はたしてリュウ・シーハンのことなどしらないようだった。
「でも、・・リュウ・シーハンのヘヤースタイルは・・・と・・」
なんと典子は、ヘヤーカタログを持ち出してきた。それをまじまじと眺め、
『前上がりのロングレイヤー、顔周りは前髪をつなげてレイヤーを多めにいれ、中間から毛先をそいで軽さをプラス。太目の円錐ロットを使ってサイドはリバース、バックハーフォワードで二回転巻く。』
とぶつぶつ独り言をいっていた。
紗希は当人のしわない名前を言われ焦っているようだった。
知らなくって当然だった。
いきなり中国のモデル、しかもニューハーフタレントに名前を言われたのでは、分からなくて当然だった。
もちろん劉詩涵はモデルであるため決まった固定のヘアースタイルなどない。
ただ単に紗希の悪戯心から出た言葉だった。
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「典子さん、大丈夫?」
「えっ、ああ、・・・紗希さんの思い切ったイメージチェンジだから、もう一度再確認を・・」
「・・ふふ・・とにかくお願いよ・・」
「紗希さん、・・カラーはどうします・・変えます?」
「時間がかかりそうだから、また今度・・今日急いでいるの・・」
「あら・・デートですね・・いいなぁ・・・」
「・・違いますよ、・・友人とお買い物・・」
「だから・・デートでしょ・・」
「・・女性の友人・・・」
典子は気づいたようだったが、それ以上は言わなかった。

2時間ほどで出来上がった。もともと上品な顔立ちにさらに磨きがかかったようだった。典子は髪を染めたほうがいいようなことを言っていたが、紗希には黒髪に対する憧れが幼いころよりあったので、染めるつもりはなかった。
急いで部屋に戻りシャワーを浴びていた。セットしたばかりの髪は、濡れないようにタオルを巻き、身体のほうはこれでもかというくらい磨き上
げていた。エアコンの温度を最大にして身体の火照りを冷ましながら、スキンケアをし、後は化粧を入念にするだけだった。その化粧もすでに着ていく服が決まっていたので、後はそれの合うようにればよかった。
そのイメージも決まったいた。
いつもこうだと紗希の外出は早いだろうが、大抵、3時間はかかっていた。
もっとも、これは昨夜から考えていたことだったせいもある。

紗希は約束のレストランに来ていた。ここは紗希もたまに使う雰囲気のよい店だった。
17時待ち合わせだったが、それまでにはまだ、10分ほどあった。
ホテルの最上階にあるそのレストランは、眺めのよい展望室にもなっていて、夜景を眺めながら食事や、酒を飲むことが出来る。
エレベーターでそこまで行き、出口のすぐ前に店の入り口があった。
自動ドアーの開くのを待ち、中に入ると壁に覆い隠され、向こう側が見えないようになったいた。それはもう一つ入り口のあることを意味し、自動ドアーの事理口とは少しずれたところに、それはあった。
その前には門番らしき人が立っていて、手動で開けてくれる。
紗希は会釈をしながら、開けられた門をくぐると、案内のウエイターが現れ、
「お一人様ですか?」
と、問いかけてくる。ここまではいつもと同じだが、紗希の返事が今日は違っていた。
「津村様と、お約束をしているんですが・・・」
と答えると、
「津村様は、すでにお越しになっておられます。どうぞこちらに」
すでに来ていることにはおどろかなかったが、客の少ないのにはとまどった。
いつもは満室で、待たされることもあった。
しかし今の店の状態は、もっとも見事な夜景の見える場所近辺は人影がなく、ただ一人の人物が座っているだけだった。

そこに座っているのは津村だったが、どうやらこのスポットを貸しきっていたらしい。
紗希の父浩三がよくやることだったので彼女にはそれが、すぐわかった。
しかし、こういう思い上がった行動を紗希はあまり好きではなかった。
幼少のころの記憶ではあるが、外で待たされた人や、遠くに座らされた人の羨望や嫉妬、不満などの視線を、辛い思いで感じていた。
そんな思いを思い出した紗希は、津村を見損ない始めていた。
紗希が案内されてくるのに気づいた津村は、たちあがって彼女を向かえ、
「来てくれてありがとう、・・・そしてすみません。言い訳がましいんですが、・・母がこのような措置を取りまして・・・」
どうやら、津村もこういうか仕切りは嫌いのようだったし、なぜか自分の心の中を見透かされたようでどぎまぎする思いだった。
しかしその言い訳を母親の持っていくのもどうかとも思った。

紗希はいま目の前に座っている青年の欠点を探している。
初対面、またそれに近い人にあった時、どこかでそうした目でみる自分に気づいていた。
ニューハーフのとき、自分が男と悟られないように、行動の一つ一つに注意していた。
その結果、相手の行動も監視するという自分があり、相手の嫌な部分を多くみてきた。
その反動なのか、相手をよく眺め、言動の中で欠点を見つけることが通常になっていた。
またそれを改めようとも思っていなかった。

津村は嬉しさのあまり、かなり雄弁になっている。
話の節々にそれを感じる。
彼は話しまくり、紗希は一言二言返答する、そんなやり取りが、しばらく続き、ワインがでてき、軽く乾杯した。といってもこの乾杯、紗希は嫌いだった。
“ほとんど初対面の人と、どんなことに乾杯なの”という気持ちだった。
しかし津村は“縁あって出会えたことに”だっただろう。
たぶん社交的には津村のほうが正しい。
しかし紗希には、この社交的なことをほとんど経験していなかった。
つい一ヶ月前まで、ニューハーフで深く付き合う人も制限され、たとえそれがセックスにいたっても、所詮一夜の付き合いだった。
見た目は女性で美しくあっても裸になる付き合いは、一夜だけということが多かった。
そんな過去の経緯があり、男との付き合いは一度だけといつも思っていた。鮫島は別として。
そんな目で津村を見ていたが、彼には目に余る欠点を見つけられずにいた紗希だったが、コースの順に出てくる数々の料理には不満を感じていた。
味が悪いとかそういう問題ではない。
彼女は現在のウエストを保つため、こうしたレストランでの食事の時には、50cmのウエストニッパーを身につけていた。今日もそうである。
そのため多く食べられず、メインのことを考え、残す品も数々だった。
そこことに津村は口に合わないと思い気を使い始めていた。
欠点のほとんど見つからない津村に更なる好感を持ち始めていた紗希は、考えた挙句、彼の断り席を中座し化粧室にむかった。無作法とは分かってもせざるをえなかった。
個室に入り、“乙姫“をだしながら、ウエストニッパーをはずした。
また出て、鏡で化粧直しをして、席に戻った。
ウエストニッパーは大きなバッグの奥底にしまいこんでいた。
急に食欲が出たように食べると、大便がたまっているように思われるので、やはり食べ残していたが、食べる量の少ない中で料理を堪能していた。
またワインも、酒は鮫島に鍛えられかなりの酒豪だったが、たしなめる程度にしていた。
こうした演技はいつも行っていた。
またそれを演じることは男性と付き合う上で必要だと思っていた。

ふと津村は、今の疑問をなんとなく紗希にしてきた。
「・・・紗希さん・・顔も声も変わったように思うけど・・・背も小さくなったような気が・・・・」
「・・・先日は風邪を引いておりまして・・背は・・・・縮んではいないのですが・・・きっと靴のせいだと思いますわ・・顔なんてメイクでいくらでも変わりますわ」
「・・そうですか、風邪だったんですか、ということはもう治っているんですね・・」
「・・ええ・・おかげさまで・・」
確かに紗希の声は、性転換後変わっていた。
そして面と合うのが二度目でよかったとおもった。
数度も会っていればこういういい訳も出来ない。
また可愛い声に代わったことも感謝していた。
ゆっくり時間を掛けて、食事を摂り、窓際のラウンジに席を替えた二人は、カクテルを飲みながら、夜景を楽しんでいた。また津村は早々と周りの予約を取り消していた。それはワインを飲み始めたころだったから、紗希が席について10分も経っていない頃だっただろう。
そのせいというわけではないが、カクテルを飲んでいる後ろは人の話し声でざわついていた。
こういう雰囲気を紗希は嫌いではない。
「後ろがざわついててすみません・・・やっぱり、予約していたほうが・・・」
紗希は津村の言葉をさえぎるように、
「そんなこと、ありませんよ・・・わたし、・・正直言いますと、ああいうこときらいなんです・・・だから、取り消してくださったこと、感謝いたしております・・」
紗希の言葉にほっとしたような津村だったが、
「紗希さん、・・・ヘヤースタイル、変えられたんですね、・・初め見たとき、イメージが違うんで、面食らってちゃって・・・」
「お嫌いですか、こんな髪型・・」
「とんでもない、今のほうがずっと素敵です・・面食らったというのはそういう意味ではなく・・・」
「・・ふふふ、ありがとうございます・・・」
あわてた津村のいい訳に微笑みながら、打ち解けた会話を続けていた。この頃には紗希も、演技などしなくなっていた。
これは相手に対し、心を許している証拠で、たぶんに自分の仮面を脱ぎ始めていた。
言葉使いのほうは中学のニューハーフ時代からの癖だったので、なかなか直らない。
父の前でもそうだから。これを丁寧と思うか、育ちのよい上品と思うかは津村の勝手だった。
なめるような飲酒だったが、ほろ酔い状態の紗希の頬はうっすらと赤みを増し、品のある色気を感じさせてきていた。
身なりは若々しく、活動的ではあるが、頬ずえをつきながら首をかしげる姿は、この上もなく美しい。
外の暗さが窓ガラスを鏡がわりにし、紗希の顔を映している。その姿は遠くから外を眺める人々の目にさらされ、注目を浴びていた。
同じようにラウンジに来て座ったカップルの男のほうは、時々紗希のほうをみている。
その浮つきに女性のほうが嫉妬し、そっぽを向ける。
そんな光景に紗希は優越感を感じる。
もっと得意顔は津村のほうだった。
まれに見る美男美女カップルだった。
紗希はチラッと時計を見た。もう10時だった。母からの電話はもう来ているはずである。
電話に出ない紗希を気遣って、また父がエントランスに来ている。
そんな光景が頭の中を駆け巡っていた。
そんな紗希の素振りに気づいた津村は、
「ごめん・・もう、門限過ぎちゃった?」
「・・ええ・・・でも、もう子供ではありませんから・・・」
その言葉の裏は、今夜のセックスを了解したものだった。
紗希とて、女性になってからのセックスこそまだだったが、かつてはニューハーフとして娼婦まがいのセックスをしていた。
だからといって、あからさまな誘いはしなかった。
それは今まででも同じだった。一緒に酒を飲み、雰囲気でホテルに行ったことはたびたびで、男ときずかれてもとりあえず性行為だけはという男の多いことか。
勿論、紗希の美貌もあったが。
上品な物腰、顔立ちではあった紗希だが、セックス、それもアナルセックスの好きな女性だった。

紗希を気遣って津村は送っていくことにした。
支払いに向かう二人に一人の若い女性が声を掛けてきた。
「すみません、○○さんですよね、・・サインをお願いします・・」
「ごめんなさい・・・よく間違えられますけど、・・・違います・・」
「えっ・・・うそ・・そっくり・・・」
「ごめんなさい・・あの方、もっと、おおきのでは・・」
そういう謝りをして、会釈をしながら、津村の後についていく。津村のほうも、やはり得意顔でいた。
支払いをしている彼に背を向け、入り口に視線を向けている。
だからといって早く帰りたいという素振りは見せない。
ころあいをみて振り返り、近づいてくる彼にお辞儀をして、
「ご馳走様でした。お食事もお酒のおいしく、楽しませていただきました」
と、お礼を言う。
女性は、特に若い女性はこれで良いと紗希は思う。
変に割り勘だの、自分の分はなど言い出すのは、男の顔をつぶすことにもなりかねない。
今後も付き合いたい相手ならなおさらだった。
反対に二度とごめんだという相手なら、さっさと支払いカウンターに行き、自分の分の支払いを済ませかえってしまう紗希だった。
それはセックス拒否の相手に限ることだったが。
手動の出口を開けてもらい、自動ドアーに向かう途中紗希は右腕で彼の左腕を抱えるように絡みついた。
彼の左腕に乳房の感触が伝わるようにわざと強く抱えた。
これも今夜を誘っている一つの行為だった。
そう感じるかどうかは津村しだいだった。

しかし、津村はその後何もせず、ホテルのエントランスホールで誰かに携帯電話で連絡していた。
紗希は仕事の電話かと思っていた。
別にこうしたデートの後の仕事の電話は誰にでも許していた。
所詮、男は一生仕事で終わるのだし、また仕事の出来る男は大半がこうして、わたし生活のなかにでも仕事を入れなければ出世は出来ないと思っていた。
紗希はまた、男に仕事と自分や家庭を選ばせる愚鈍な女性を見下していた。
それは並べて考えてはいけないことどうしで、両方大事に決まっている。
だから中途半端な男は悩む。
仕事に専念すれば女性や家庭に飽きられ、反対だったら出世は望めない。
今の時代、リストラも近い。そんな男のとっては都合のよい女性だった。

麗羅の館ⅩⅤ

第二話:今宮紗希
11
 
沙羅を手術した病院は”麗羅の館“といい、そこに紗希は再び訪れていた。
女医の名前は藤原麗羅といい、ナース的な役割をしている若い子は裕美といった。
話の内容から、二人は姉妹みたいだった。
その二人から紗希は辛辣な言葉を浴び、心がめげそうになったが、麗羅の言うとおり顔は乳房の入れ物を取り去ったのだった。

その傷も癒え再び診察を受けている。
醜くなったとは思えなかった。
ただ通常より魅力がなくなった程度だった。
その姿を確認すると麗羅は入院を即し、翌日から性転換に必要な治療を始めたのだった。

それは薬物投与が始まった、女性ホルモンは必須だったがそれ以外に何種類のも薬を飲まされたのだった。
そして毎日スキンマッサージも行われ、紗希の肌は見る見るうちに綺麗になっていった。
だからと言って今までの肌が荒れていたわけではない、それ以上の肌理細やかさを持ち始めたのだった。
さらなる変化は乳房にも表れ、シリコンを取った乳房は皮膚がたるんでいたが、再び張りを持ち始め以前以上の巨乳に育ち始めていた。

そんな入院生活での薬物投与が二週間くらい過ぎると、身体にメスが入り始める。
全身麻酔のせいでどこをどう変えられたのかわからない、ただ手術室から出るたびに包帯の数が増えていった。
傷の癒えたところから包帯は解かれていくのだが、顔に包帯を巻かれ、目までふさがれていたので自分の身体の変化が分からない。
この顔の包帯が取れた時、自分の性が変わったことを意味するのかも知れなかった。

そしてその瞬間が今訪れようとしている、おそらく麗羅は意図的に目を隠した包帯を最後にしたのかもしれない。
すでに他の部分は解かれている、後は目を隠した包帯を解くだけだった。
目を閉じているように言われた紗希は言われたとおり眼を閉じたままでいる。
勿論、二か月以上光を与えていない瞳孔には光は毒でしかない。
うす暗くした診察室の中で紗希はゆっくりと瞼を開けていった。
少しの光でも眩しく感じる、だが次第にその明かりにも慣れてきてぼんやりとしたシルエットがはっきりと見えてくる。
目の前にいる麗羅の笑顔がだんだんとはっきりと見えてきた。
「そうよ・・ゆっくりとね・・・徐々に目を慣らしてね・・」
「・・は・・い・・」
「・・・・こっちにきて・・」
裕美が手を取り大鏡の前まで導いてくれる。
入院中は裕美にはいろいろとお世話になったものだ、今こうして普通に歩けるのも裕美が歩行訓練につきあってくれたからだった。
また身の回りの世話もすべて裕美がしてくれた、いまこうして退院の日を無事迎えられたのも裕美のおかげと言ってよかった。

「さあ・・これが新しいあなたよ・・よく見てごらんなさい」
「・・えっ・・うそ・・」
紗希は驚愕の眼で鏡を見ていた、そこには以前とは雰囲気は似ているが全くの別人が立っていた。
あどけなさの残る可愛い、いや綺麗な女性が立っている。
それが自分だと気付くのに少しの間があった、とても信じられないことだったのだ。
男を少しも感じさせない全くの女性、しかも可愛らしい女性に変わっていた。
裕美にヘアダイしてもらい、目力を強調したメイク姿はより一層女を感じさせていた。
常日頃からつけていた付けまつ毛など必要のない長い睫がそれを強調していた。
沙希返信
この姿が元男だったとは信じられないくらい綺麗になった紗希は家路に着くのを急いだ。
はやく両親にこの姿を見てもらいたかったのだ。
勿論紗希には紗希の部屋がある、だが今日は両親や兄夫婦の住む家へと向かった。
入院中、一度も見舞いに来なかった母にこそこの姿を見てもらいたかったのだ。
あれほど日頃から女になるために協力をしてくれた母は何かの意図があってこなかったのだろう、それを知りたくもあったのだ。

もともと紗希のために新築しておいた白亜の屋敷だったが、三男に譲り、その三男のもとに一組の老夫婦が住み着いた感じだった。
狭いとは言いながらも、このあたりではかなりの広さを持つ庭を通り抜けると玄関がある。
ディズニーのキャラクターの下には今宮幸雄、沙羅の名前が入ったプレートが玄関ドアに吊るされている。
処女趣味、一目で沙羅の発案だと分かる、そしてその横にあるインターホンを押した紗希だった。

「は~~い、どなた?」
若々しい弾んだ声が聞こえてくる、沙羅だ。
そういえば沙羅の臨月は過ぎている、もうすぐ生まれるという時に自分は“麗羅の館”に入院したことを思い出した。
外との連絡を絶っての入院だったので沙羅の出産のことは全く知らなかった。
それでも母が来てくれていたなら、多少なりとも情報は得られたはずだった。

中から騒々しく玄関に向かって走ってくる足跡が聞こえてくる、ぱたぱたとスリッパを鳴らす音だった。
カチャリ!
ドアが開き、中から可愛い女の子が顔を覗かせる、沙羅だ。
ショートだった髪もすっかり伸び、ツインテールに結んである、どこから見ても女の子だった。

「・・あれ・・紗希お姉さま?」
「うん・・そうだよ・・こんにちは、沙羅ちゃん・」
「うっそ~、全然変わっちゃった、ホントにお姉さま?」
「ん、もう・・・ほんとに紗希よ、孝雄クン」
「あっ、いやだぁ・・・でも。ホントにきれいになって・・・・あっ、前から綺麗だったけど・・・もっと・・・・」
「いいのよ・・・それより・・沙羅ちゃん、お産は?」
「うん、生まれたよ、女の子・・・・・あっ、いけない・・どうぞ、なかへ・・」

沙羅は赤が基調のギンガムチェックのミニスカートを翻し、応接室へと紗希を案内した。
紗希がこの家に来るのは久しぶりだった、初めてではないこの家も沙羅の好みなのか少女っぽい壁紙、レイアウトで飾られている。

応接室では母が花を活けていた、そして入ってきた紗希の気配に手を休め、驚きの眼で紗希を見つめたのだった。

「・・紗希・・紗希なの?」
「うん・・ママ・・どう?わたし・・」
「・・・綺麗になったわ・・ほんとに女の子らしくなって・・・・見違えたわ」
「ありがとう・・いろいろ協力してくれて・・・」
「いいのよ・・あなたを女の子に産んであげられなくってごめんね・・・あなたも苦労したんだから、これからは今までの分、楽しみなさい」
「うん・・でも、とうとう来てくれなかったね、病院に・・」
「ええ・・・それについてはごめんね・・完全看護で必要ないって言われるし、紗依も・・あっ、紗依って孫だけど・・
生まれたこともあったしね・・・なによりも、あなたが切り刻まれるのを見るのがつらかったの・・」
「・・・切り刻まれるかぁ・・・でも、アタシ、生まれ変わったわ完全な女の子に・・先生の言うには沙羅ちゃんみたいに赤ちゃんも産めるんだって・・・あっ、そうだ・・ねぇねぇ・・紗依ちゃん・・みせて・・」

紗希は姪の紗依を抱き、頬ずり押しながら自分もこんな赤ん坊が産めることを望んでいた。
そんな紗希を優しく見守る母瑞枝だった。

そのころ麗羅は初めて試みた術式のデーターを整理しスパコンに収集していた。
もともと麗羅の性転換の術式は睾丸をES細胞によって卵巣、子宮に培養し、それを患者に移植してきたのだった。
だが孝雄という患者はすでに睾丸を摘出していて重要な卵巣、子宮を作る材料がないのだ、麗羅は考えた挙句、その材料を孝雄の母に求めたのだった。

呼ばれた瑞枝は麗羅の若さに心配はしたが、三男の嫁、沙羅を完全な女性に性転換させた技術を信頼し、麗羅の言うとおり、自分が末っ子の希望通りの性に産んでやれなかった贖罪の意味も込めて自分の女性器の一部を提供することにしたのだった。
麗羅は卵巣を全部取るのではない、少しあればいいという、だが瑞枝はこの可愛い末っ子を、自分が命を懸けて産んだ末っ子の希望通りの性に変えてやるためだったら全女性器を捧げても厭わないと思っていた。

そんな瑞枝の決意から、卵巣の組織の敵出はその日のうちに行われ、その組織は麗羅の手により卵巣、子宮、膣など完全な性転換に必要な臓器に培養されていった。
やがて十分に成長した各臓器は紗希の中に移植され、彼女は沙羅と同じように妊娠可能な女性へと生まれ変わったのだった。
母の遺伝子を持つ生殖器を移植された紗希は更に染色体も薬物投与によってXyからXXに変えられ、完全な女性へと変換したのだった。

そのさまざまなデーターがスパコンに収集されていく、今回初めての行ったことは母親の生殖器を使ってのことだった。
そして今まで行ってきたこともわずかながら改良も加えられている。
それらをすべて分類しながら収めていく、面倒だがこれから役立たせるためには仕方なかった。

すべてが終わり、疲れから全身を椅子の背もたれに預けると後ろから豊満な乳房を両手で抱きしめられたのだった。
そしてうなじに熱い息をふき掛けられる、さらに柔らかい唇の間から舌が姿を現し、うなじを愛撫する。
「あっ・・・ああん・」
「・・・・・・」
「ああん・・・あっ・・あっ・・・ああぁ」
両手は服、ブラの上から乳首をいたぶる、そのたびに麗羅の官能は高まっていった。
「・・・裕美・・ちゃん・・あっ・・ああん・・もう・・・いい・・か・・げん・・に・しなさい・・」
「・・・・・ほ・し・い・・お姉さま・・・」
「・・・あぅ・・あふん・・・ああん・・も・・う・・だ・・め・・」

疲れた体に過度の官能の高ぶりは麗羅の自由を奪った、そして裕美の肩を借りなければ自分の寝室まで歩けないほどだった。
「あん・・あん・・あああ・・あふん・」
「・・・いい・・いいわぁ・・あっ・・そこ・・あふん・・」
「うう・・・うううん・・・あっ・・い・・くっ・・・」
「あうん・・ああ・・・あふっ・・ああ・・」

どちらともわからない喘ぎ声が寝室の中で鳴り響いていた。

沙希変身2

麗羅の館ⅩⅣ

第二話:今宮紗希
10

年も開け、日増しに大きくなってゆく沙羅のお腹を見ていると、紗希はうらやましくなってきた。
自分にはいま、愛している人などいないが、これから現れるだろうその人の子供を産みたいと思うかもしれない。そうなったとき、今の身体ではその望みは叶えられない。
そんな気持ちから、沙羅にどこで性転換したか聞いてみたことがある。
そのとき沙羅は、お義母さまにすべて話してあるから、そのうちに、話があるだろうということだった。
沙羅の言葉に冷たいと思ったが、とりあえず、彼女の言うとおり母からの連絡を待った。
最近では、女装に関するすべての行為がむなしくなることがある。
いくら手入れをしても所詮、ニューハーフでしかないのだ、沙羅のように妊娠し出産もしてみたい、自分の子が欲しい、これが女装、ニューハーフの人たちの共通の希望かもしてない。
しかし、それは夢物語でしかなく、結婚、入籍ですらできない。
せいぜいできても養子縁組くらいで、これですらなかなか実現できない。
所詮、希望、願望である。

その究極の希望を、沙羅は実現しようとしている。
自分のほうがもっと早くその希望を持ち、常々努力してきた。
しかし後からの沙羅に先を越されることに、またジェラシーを感じていた。
自分の気持ちを抑えることに限界を感じ始めていた紗希は、いらいらし始めていた。

大学も新学期が始まろうとしていたころだった。
大学生活を続けるには、もう始まっているガイダンスには出なければならない、しかし、その大学生活も拒否しようとしていつ紗希だった。
5月病という言葉をよく聞くが、新入生、新入社員に対しての言葉であり、この言葉を紗希に当てはめれば、かなり遅い5月病だった。
パソコンに向かい、自分の大学のホームページを見ている。
講義のほうの履修だけでもしておこうと、手続きをしている。
もはやあれほど好きだった外出ですら、億劫になっているのだ。
時間を掛け支度をしても、むなしいだけなのだ。

丁寧に化粧をして服を吟味し、着飾り、人の多い街を目的もなく歩く、こんな行動が好きだった。
人々の注目をあび、時には誘いに乗りお茶や食事、お酒に付き合う。
お互い気持ちが高揚すれば、セックスまで及んでいた。
どんな時でも紗希はうまくあしらい、男を満足させ、彼女をニューハーフと気付かせなかった。
そんなテクニックも身につけていた。
またうすうす気付くものもいたが所詮、一夜の付き合いと割り切り、修羅場になったことはない。
時には金を払うものもいたが、別に断りもせず、娼婦気分を味わっていた。
それほど女装に長けていた紗希だった。
そんなゴールデンウイーク前のある日、母から電話があった。
明日来るというのだ。紗希は、このときわずかな希望をもった。
沙羅の言っていたことかと。そう思うとわくわくし始め、また漫ろ女装の虫が騒いだ。

シャワーを浴び、いつもの手順で綺麗な女になっていく。
着る服の吟味も入念だった。靴は決めてある。それに合わせた服をえらべばよい。
お洒落なニットの薄手のセーターに、皮製の黒のマイクロミニのスカート、黒のブーツ。
これが紗希の外出姿だった。
セーターは白で、首部分の広いそのセーターから垣間見える白い肌は、セーターの一部かと思われるほどだった。
化粧は清楚に仕上げ、最近ワンパターン化しているヘヤースタイルにマッチしていた。
トレードマークになっているネックタイもセーターの色に合わせている。
ネックタイ、本当は呼び方が違うのかもしれないが、彼女はそう呼んでいた。
男物のネクタイと区別するため、ネックと名づけていた。
白のハーフコートは、ジャケット代わりでもある。
睫毛の生え際には、チャコールグレーのアイラインは上が筆で、下はペンシルで軽く、薄いラベンダー色のシャドーを細くつけ、瞼の大半は、ラメ入りのピンクシャドーだった。
ルージュもつけていないと思われるような淡いピンク、若干の明るさを持たせるためのピンクのチーク、素肌を生かすためのナチュラルなファンデーション、桜色のマニュキュア。
清楚なお嬢様風に仕上げた紗希は、ウインドウショッピングと決め込んでいた。
すれちがう人は、顔は前を向いているのに視線だけを紗希の向ける者、顔ごとむける者、振り返る者、反応はいろいろだが、存分に注目を浴びている。
久々の恍惚感だった。

そんな紗希の後ろから、声を掛けるものがいた。
「あの・・お茶でもいかがですか・・・」
25歳くらいの、スーツ姿の男性だった。歩道よりに寄せられた高級外車が、ハザードをかちかちと鳴らしている。
この男性が乗ってきたものだろう。育ちのよさそうはその男性は、美男子で紗希好みだった。
「・・・実は昨年、このあたりでよくお見かけしました。今年になってお見かけしないので、探していました・・」
ストーカーと思い、後ずさりした紗希だったが、青年の好印象に耳を傾けていた。
「・・立ち話も、なんですから・・・そこの店でお茶でも・・」
紗希は迷った挙句、車を指差し、
「あの車、あなたのもの・・・捕まっちゃいますよ・・・」
ややハスキーな声ではあるが、声から男性と見破られたことはない。
中学のときから女性ホルモンの投与などで女性化に努めてきた紗希だったが頭部の骨格などのせいで女性にしてはやや低い声質になっていた。
また喉仏も気にするほど出てはいないのだが紗希自身が男だったという意識が抜けないためそのわずかばかりのふくらみを過大視していたのだった。
そして自分の素性を分からせるためわざといつもより低い声で話し自分はニューハーフだということを知らせていた。
自分好みの男性に出会ったとき紗希はよくこういう行動にでる。
青年は、あっと思い、車のほうを向いた。
その隙に、紗希は彼から離れ歩きはじめた。
次の青年の行動を待つ、試してみる、こんなことをしばしば行う。
そして大抵の男はここで、車にもどり、移動させる。
つまり、違反切符と罰金のほうが紗希よりも上ということになる。
しかし青年は、紗希の後を追った。
「待ってください・・返事をもらっていません、いやなら嫌と言ってからにしてくれませんか・・・こういうやり方は卑怯です・・・」
紗希は笑い出した。
「卑怯ですか・・・勝手に話しかけてきて・・・・」
「それはそうですが・・・」
「わたしの態度で判断するのも、あなたの義務だと思うのですが・・・」
「・・・じゃあだめですか・・」
「・・・すこしだけなら・・・でも、お車のほうはどうなさいますの・・」
「いいんです・・人身事故でもあるまいし・・駐禁くらい・・・」
「でも、他の車が迷惑しますよ・・」
「そうですね・・・じゃあ、ちょっと・・・」
といって、携帯電話を取り出した。そして誰かに電話した後、こちらを向きなおし、
「失礼しました・・・店のほうは僕が選んでもいいですか?」
「ええ・・・」

洒落た造りの喫茶店の入った二人は、向かい合って座った。
窓沿いの角のテーブルだった。
外からよく見える位置に紗希を座らせ、自分は、壁に隠れる席に座った青年は、一気に話しはじめた。
紗希は、椅子に浅く腰を下ろし、両膝を揃えて脚は斜めに、つま先は延ばしてそろえる。
重ねた両手にはハンカチが握られ、背筋は伸ばしていた。
青年の話に時折、相槌を打ち、彼の問いにわずかに答える程度だった。
それは、はにかんでいるようにもみえた。

青年は、昨年の今頃、このあたりで紗希を見かけていた。
そのときは声もかけられなかったが、ここに来るたびに、紗希を探すようになっていた。
紗希のほうは、ここはお気に入りのスポットで、月に一度は必ず来ていた。
また昨年の夏は沙羅とここでたくさんの買い物もした。
しかし、今年に入り、沙羅のところに通いつめていたこともあって、しばらくご無沙汰だった。
思い起こせば青年は幸運だったのかもしれない。
そんな時、外では、彼の車に誰かが乗るのを見つけた紗希は、
「津村さん・・・どなたか、お車に・・」
青年は津村良樹といった。
「あっ・・いいんです・・頼んでおいたもんですから・・」
「・・・・お友達?」
「そんなようなもんです」
紗希は津村に対して印象がどんどん良くなって行った。
そして今度会ったときには自分の秘密を話そうと思った。
それでも付き合ってくれることを祈りながら。

津村は、名刺ではなく携帯の電話番号をメモした紙を渡し、このあと用があるので、名残惜しそうに去っていた。また次、いつ会えるかとの誘いには、あえて答えなかった。
都合がついたら連絡するとのみ、いっておいた。

ウインドウショッピングと決めていたが、結局、夏物のワンピースを買ってしまった紗希だった。
なじみのブティックの手提げ袋を持ちながら家路に向かった。
町並み木は新緑を湛え、目にもまぶしかった。
今はその新緑を眺める余裕も出ていた。
母から希望を持たせる電話と今日知り合った好青年、津村良樹。
もうすぐ訪れる初夏と共に、紗希にもなにか人生の転換が訪れようとしていた。
長崎からの大移動で疲れ果て、娘の部屋のソファで休みを取っている瑞江だった。
名産のお土産を娘に渡し、冷たい飲み物と口にしている。
今夜一泊して明日、息子夫婦のところにいく予定だった。

二ヶ月前、息子が婚約者を連れてきた。
まだ15歳という若い婚約者はすでに、妊娠しており、その処遇を夫浩三とともに話し合った。
浩三は終始無言だったが、心の中はおおむね賛成だった。
この夫との付き合いも、40年近くたっている。
両親同士が決めた事業拡大のための政略的な結婚にもかかわらず、まれにみるおしどりで、ここまできた。
夫に対してなんら不満はない。
ある程度の束縛と、かなり自由な今の人生には満足している。
数年前まで会社の役員として名と連ねていたが、いまは長男、次男に譲り、彼らの家庭のほうの顧問になっていた。
長男、次男の嫁達がよく彼女のところに来て、夫への不満や子育てについてこぼしていく。
お茶を飲みながら不平、不満を黙って聞き、帰り際に一言アドバイスを与える、そんな今の状況だった。
嫁達はただそれを聞いてくれる、愚痴を聞いてくれるはけ口がほしいだけだった。
長男次男にはふたりずつの子供が、瑞江にとっては孫だが、いるがこんど三男にも子供ができる。
相手はまだ15歳という。自分も14歳で長男を産んだので、取り立てて驚くことではない。
入籍できる年齢になるまでとりあえず自分達の養子にすればいいことだっだ。
心配だった末っ子にも、一つの光明を持って今日上京してきのだった。

一枚のメモを紗希に渡し、
「わたしは明日、沙羅ちゃんのところに行くから、あなたはここにいきなさい」
「・・・・、」
「幸雄からのプレゼント・・」
「兄さんから?」
「そう、・・あなた、沙羅ちゃんの面倒、よく見てくれたんだってね・・だからそのお礼だって・・・」
「なんなの、これ・・」
パソコンのプリンタで印刷した用紙を紗希の前に差し出し、
「よく読んで・・どうするか・・自分で決めなさい・・・」
「・・沙羅ちゃんがここで・・・」
紗希はやっとの思いだった。沙羅の言っていたことだった。

『そのうちに、お義母さまから話がある』
実のところ、心待ちにしていたのだ。
そのくせわざと、拒むような態度を取る。書かれている内容を読み、
「大丈夫なの、これ・・・」
「沙羅ちゃんをうらやましく思わない?」
「・・それは・・・」
図星だった。うらやましくて、ジェラシーを感じたほどだった。
「お父さんも、あれこれ言っているけど、本心は賛成だから・・」
「・・・とりあえず、いってみる・・・」
「いつものように、お金のことは心配ないから・・」
それからの母は雄弁になり、あれこれ勝手に話してた。
たぶん紗希に不安を与えないためだろう。
沙羅のことについて話していた。

彼女も今高校に通っている。大きくなり始めているお腹を抱えての通学はたいへんだろう。
また妊婦がよく、格式の高い○☓女子校に入れたのか紗希には不思議だった。
しかし、最近思うことの一つに、幸雄の人脈の広さだった。
紗希には無理だと思うことも、人脈を通じて可能にしてしまう。
研究、研究でオタク的な印象しかなかった幸雄を、見直し始めていた。

瑞江は沙羅を長崎の自分のもとにおくことを考えていた。
そのほうが幸雄夫婦の負担が少ないと思っていた。
また幸雄を地元の大学病院に勤めさせれば、教授はおろか総長にもなれる。
ただ問題は幸雄の分野である脳外科の世界では、彼の技術は世界的に有名で、今後も彼の活躍の場は、地方都市の長崎では収まりそうにない。
また大学側も手放すことはないだろう。

紗希があの沙羅が手術した“麗羅の館”の門をくぐっているころ、そんな話し合いが三人によって行われていた。
瑞江の提案に沙羅が真っ先に、異を唱えた。
嫌だとははっきりとは言わない。
自分のために幸雄を、今の職場から去らせるようなことは嫌だし、重荷になりたくないし、離れたくもない。
そんなことをやんわりと、瑞江に訴えるのだった。
その沙羅の気持ちは重々分かる瑞江だった。
自分も浩三と離れるのが嫌で、彼のあとをついて何度も転校したものだった。
考え終わって、一息ついた瑞江は、
「じゃあ、わたしがこちらにしばらくいましょう、・・・お手伝いさんを雇うことも考えましたが、まだ若くて、使ったことのない沙羅ちゃんにはかえって、重荷になるかも知れません・・」
「・・・俺達はいいけど、父さんはどうするの・・・」
「・・・そうね、・・父さんも連れてこようかな・・・わたし達も離れるの、嫌だし・・・・・」
「何だよ、それ・・・まだそんなに、熱々かよ・・・」
「・・素敵・・」
沙羅は目を潤ませて、ぽつりと言った。

結局、初老夫婦が東京に住むことにした。住むところはたくさんある。
沙羅の通っている高校の近くに、ちょうど4人で住むには大きすぎるほどの一軒家があった。
幸雄の通勤にも近くて便利だった。実はここには幸雄に譲ろうと考えていた家だった。
しかし独り者の幸雄には広すぎたので、仕方なく開けておいたものだった。
三人で決めたことだったが、幸雄は、父が来ることはないと思っていた。
そのことを母に言うと、
「大丈夫よ、わたしが連れてくるんだから・・」
「でも、会社のほうは・・」
「今は、もう隠居みたいなもんだから・・・」
会社のほうは、長男が取り仕切っていて、パソコンのメールやFAX、電話などで済ませられることだけだから、大丈夫だということだった。
また、今でも自宅にいて用を済ませることが多かった。
「でも、沙羅ちゃん、こんなおばあちゃんと一緒じゃあ、いや?」
「そんなことありません、あたしにはもう両親はいないし、・・・本当のお母さんと思っています。・・失礼ですけど・・・」
「そんな、失礼だなんて・・・一番上の孫と同じ年だけど、しっかりしてるわね・・」
「・・・・・」

麗羅の館ⅩⅢ

第二話:今宮紗希
 
今、紗希は犯罪行為をしている。
区役所のコンピューターに進入しようとしているのだ。
ぽんぽんキーボードを打つ。ウインドウに指示が出る。
また入力し、の繰り返しだったが、ある数字を入力の後、「よし、出た・・・」と叫んだ。
その声に驚き、テレビを見ていた沙羅もウインドウを覗き込んだ。

「・・沙羅ちゃん・・どんな経歴がいい?」
「えっ、・・・どういうこと・・・」
「つまり・・・どこで生まれて・・どこの小学校を卒業して・・そういうこと」
「そんなこと、もう、決まっているんでしょ・・・」
「だから変えるのよ・・・」
「できるの、そんなこと・・・」
「・・・今のままでいいけど・・・女になれるなら・・・」

どうやら、沙羅にもそれが危険で違法な事に気付き始めた。
紗希も区役所のデータに進入できたことに有頂天になり、すっかり舞い上がっていた。
さっさと沙羅の部分を“隆夫”を“沙羅”に、“男”を“女”に書き換え、ウインドウを閉じた。
次に、自分の住んでいるところの区役所に進入しようとしていた。
しかし、こちらのほうは、セキュリティが頑丈でなかなか入り込めなかった。
二時間ほど粘ったが、だめだったので、今度は大学のほうへと、目標を変えた。
こちらのほうは簡単だった。
ものの数分で入り込み、沙羅と同様に名前と性別を変えてしまった。
しかし、違法ではあるが、たぶん見つからないだろうと思っていた。
あまりたくさん、変えたなら気付くものもあるが、一人分を変えただけである。
そんなに注意深い人間がいるとも思えない。

翌日、紗希は沙羅を伴い、区役所に出向き、沙羅に戸籍謄本をもらってくるよう指示した。
紗希が行ってもいいのだが、身分照合をさせられたとき何かと面倒なので、沙羅の学生証を偽造して持たせてあった。
30分もして沙羅が、嬉しそうな顔をして戻ってきた。そして戸籍謄本を紗希に見せるのだった。
そこには確かに、沙羅の名と女という文字があった。
紗希は早速、幸雄に携帯電話で連絡した。
幸雄は何のことわからず、頓珍漢なことを言っていた。
紗希は苛立ち、とにかくマンションのほうに来るよう言った。ぷりぷりと怒りながら歩いている紗希と間裏腹に、沙羅はにこにこしていた。
戸籍謄本の変更がどんなものか分かっているようだった。
「お姉さま、あたしこれで女になったんだよね」
笑顔で話しかけ来る沙羅には、つっけんどんな態度はできなかった。
紗希は笑顔で、
「そうよ、これで沙羅ちゃんも、男の人と結婚できるのよ」
「・・でも子供は産めないんだよね・・・」
「そうね、残念だけど・・でも養子をもらえばいいじゃあない・・」
「幸雄さんの本当の子じゃあないんだよね・・」
これには黙るしかなかった。
しかし、本当に幸雄と沙羅が結婚したら、自分は沙羅を反対にお姉さんと呼ばなければならなかった。
「年の差、19歳かぁ・・」と呟いた紗希だった。

二人が帰ると同時くらいに幸雄がやって来た。
急いで歩いたらしく息を切らしていた。顔色は青い。
部屋に入るなり、
「紗希、・・いったいどういうことなんだ?」
「これみて・・」
紗希に手渡された戸籍謄本をゆっくり食い入るようにみた幸雄は、おどろきで声にならないようだった。
「これは・・・いったいどうして・・」
「へへへへ・・・やっちゃった・・」
「役所のデーターに・・・ハッカーか・・・」
「・・・厳密に言えば、・・・じゃあない?・・・」
「細かいことはいい・・・とにかく、書き換えたんだな・・」
「・・・・うん・・・」
「たいしたことをやってくれるよ、おまえは・・・」
「・・・大丈夫、・・・」
「・・・・みつからないだろうな・・・」
「うん・・・自信ある・・・見つからない・・」
「そんな自信・・・・」
「あったほうがいいじゃん・・・」
「・・・・なんかあったら、俺が責任、とる・・・」
「・・・・兄貴、そんなに、思いつめなくったって・・・」
「・・しかし・・・」
「だいじょうぶ、あんたの妹を信じなさい・・・」
「妹って、お前、・・・自分のまで・・・」
「学籍は・・・戸籍はだめだった・・・」
「ふぅ・・・」
大きくため息をついた幸雄は、何か考え込んだみたいに、黙り込んだ。
そして、数分後、口を開いた。
「・・・沙羅・・・・もう一度転校することになるけど、いいか・・・」
「・・・・」
沙羅は、うなずくだけだった。
「よし・・・わかった、・・あしたから、学校を探す・・・まだ、新学期まで三週間ある・・・なんとしてでも探す・・・もし今後、不都合が起きても、紗希を恨むな、恨むなら、俺を恨め・・・すべて俺が、紗希におまえのことをたのんだせいで・・・」
「そんな・・・恨むだなんて・・・」
「兄貴、そんなに思いつめなくったって・・・それのそれって、おいしいとこどりじゃん・・」
「あいかわらず、お前は、物事を簡単に考えてるな・・・まあいいや、とにかく、いまは、有り難うって言っておく・・」
確かに幸雄の言うとおり、紗希にはそんなところがあった。
中学生のころから女装を始めたり、それが高じて女性ホルモンの投与や、睾丸摘出、整形などとても中学生でそんなことまで実行する人なんてそういるものではない。
ましてや、自分の思いを遂げるためには手段を選ばない、違法なことまで平気で行う。
これも富豪の家に末っ子として生まれ、わがまま一杯に育った世間知らずだったせいかもしれない。
沙羅をもう少し頼むといって帰っていく幸雄の後姿には、悲壮感さえ漂っていた。ふーとため息をついた紗希は、苦笑いをせずに入られなかった。

それからの三週間は、とみに忙しかった。
沙羅の勉強を見たり、転校をすることにはなっていたが、一応、宿題も勉強の一環ということで済ませていた。
また沙羅のオーダーメイドの服や下着のサイズあわせ、それもぜんぶで、30点以上のも数だったから、ほとんど毎日のように、外出していた。
寒い日での外出は帰ってからの肌の手入れも大変で、それだけでも1,2時間は費やしてしまう。
若さあふれる沙羅も綺麗に変わった今は、紗希と同様に手入れは怠らなかった。
これも紗希が彼女の教え込んだ賜物だった。
またお互いに女性ホルモンをまだ投与している関係上、医者にもいかなくてはならなかったが、時折顔を出す幸雄が大量の薬を持ってくるので、それを紗希も使わせてもらっていた。
しかし、その薬は紗希には少々強かった。
だが、病院での待ち時間を考えれば、それもいいかなと考えるようになっていた。

この薬を使いはじめてすでに2ヶ月が過ぎようとしていたが、効き目が早いことに気がついた。
どんどん肌が肌理細やかになってゆくのが、手に取るように分かった。
紗希は女性ホルモンを使い始めて、6年近くになるが、こんなことは初めてだった。
何か一皮剥けるという表現がぴったりだった。
また全体の身体の線が丸くなってもきた。
それは沙羅にもいえることだった。
彼女のほうは、まだ発育中ということでの変化もあったが、なにより、バストがいまだに大きく成長しているらしい。せっかく出来上がってきたオーダーメイドのブラジャーがきつくなっていると言い出していた。
試しにはかってみると90cmにもなっていた。
そのとき初めて、紗希は沙羅にジェラシーを感じた。

新学期が始まり、沙羅は幸雄のところに帰っていった。
結局沙羅は今の中学校で、転校生として、通うことになったらしい。
幸雄はもう少し紗希の元に沙羅を置いておきたいといったが、紗希は沙羅にジェラシーを感じていたので、これ以上一緒にいると沙羅のことを嫌いになってしまう。
そうなることを避けたいがため、妹のように可愛がった沙羅を幸雄のところに戻したのだった。

沙羅からの音信がとだえて、八ヶ月が過ぎた。
もう年の瀬で街では、クリスマスソングがいたるところで流れていた。
日の落ちるのもすっかり早くなり、まだ5時だというのに、あたりは暗くなっていた。
寒さも厳しくなり、着ているものもおのずと厚着になる。
豊満な身体を見せたい紗希には不満もあったが、セーターなどで喉仏がかくせるので、利点もあった。
しかし夏服のときは必ずといっていいほど、アクセントとしてや、ファッションとして首には絶えず何かを巻いて、隠していた。
それが度重なると、トレードマークとなり、巻くことに違和感を持つ者は、いなくなっていた。
冬服になっても時どき巻くのも、夏への複線だった。
自宅マンションの近くまで来たとき、携帯電話が鳴った。
男ではなく、まただからといって、戸籍上も生殖機能的にも女性ではない自分に自信がないため、友人をつくることがはばかられたので、親しい友人はいなかった。
ときどき、お昼を一緒にするくらいの付き合いの友人が2,3人いるだけだった。
この携帯の番号を知っている人は、5,6人だったので誰だろうという気持ちといたずらか間違い電話くらいの気持ちで、携帯電話を広げてみた。
別にメモリー記録してあるわけでもないので、相手の番号が出るだけだったその電話の向こうから、若そうな女性の声が聞こえてきた。
やっぱり、間違いかと思い、それなりの返答をしようと思ったとき沙羅という聞きなれた懐かしい響きが耳に入ってきた。
「沙羅ちゃん・・・・おひさぁ~~~元気・・・どうしたの?」
「おひさぁ~~、紗希お姉さま、これから、お宅に、お伺いしてもいいですか?」
彼女はいつもこのような丁寧な言葉を紗希に対して使う。
「・・・いいけど・・・なんかあったの・・・」
「あった、あった・・・へへへ・・・一緒に喜んでもらおうと思って・・」
一緒に喜んでもらおうなんて何のとこだろう、兄貴と結婚でもするのかな、などといろいろ考えていながらも、久しぶりの妹の再開を楽しみにした。

マンションのエントランスに入ると、そこにはすでに沙羅が待っていた。
しかし、沙羅の顔が変わったようだった。
声も、さっきの電話でも感じたが、すこし、高くなり、より女性っぽくなっていた。
また、あれほど大きかったバストも小さくなったような気がした。そんな疑問を沙羅に、
「・・ねえ、少し声が変わらない?・・・それに胸も・・・」
「・・・後で話します・・・・」
そういって、紗希の左腕をとり、エレベーターへと向かった。

部屋に入りエアコンのスイッチを入れた。紗希の部屋の暖房はこれだけだった。
他の暖房器具を使うと部屋が狭く感じるので、おいてなかった。
決して狭い部屋ではないのだが、気分でそう感じるのだ。
「・・寒くない?」
沙羅に気を使う。久しぶりに会ったせいかもしれない。
どことなく沙羅に対してやさしくなっている。
「少し・・・わたし、いま、妊娠中なんだ・・・」
「・・・・・・・」
紗希は聞き間違いと思い、言葉を発しなかった。
「3ヶ月・・」
「・・・・・・」
まだ、言葉にならず、頭の中の思考回路がパニックになっている。
「お姉さま、・・・喜んでくれないの・・・」
「・・・ちょっと。順を追って話しなさい・・・なんのことだか・・・」
「実は・・・・」
沙羅は、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに、話し始めた。

新学期は始まり転校生として学校の通いだした沙羅だったが転校生いじめに遇い、3,4日登校拒否になった。それを知った幸雄は、“自分に自信がないなら、本当の女性になるか”と言い出した。そのとき、沙羅は何のことが分からず、ただうなずいただけだったが幸雄は了承したと勘違いし、次の日沙羅を連れ出し郊外のあの館の門をくぐった。
そこで、いろいろなことを聞かれ、四か月後には女性に転換していた、という紗希には夢のような話をした。
色々な手術を受けたことは覚えているが、気がついたときは女性に代わったと伝えられ、半信半疑だったが、女性の性器を持った沙羅に欲情を感じた幸雄は、毎夜沙羅とのセックスにおぼれ、まさかと思ったので避妊もせずに、挿入、膣内射精を続けていた。

二週間もすれば生理が来るといわれていたがこなかったので、やっぱり嘘だったんだと思っていた。
ところが最近、吐き気をよくもよおすので、医者の診断を仰いだところ、妊娠を告げられたということだった。
幸雄には、今日電話で伝え、ここに来ることになっていた。
幸雄も常識では考えられないことなので、まだ信じていなかった。
ましてや医者である幸雄に、信じろといっても、無理だった。
ただ沙羅だけは、素直に喜んでいた。この素直さを持つ沙羅なので幸雄が愛しているのかもしれない。
年の差など気にもせずに。
そういう意味では、幸雄も学者馬鹿で、沙羅とは違った素直さを持っている。

沙羅の話が終わったころ、幸雄が来た。
本当か、本当かの連発から、まさか、まさかに代わり、信じられないとなった。
紗希は、エントランスでの疑問を沙羅に聞いてみた。声のほうは、沙羅の話がうそでなければ、なんとなく分かる。
「ねえ、沙羅ちゃん・・おっぱい、小さくならない・・??」
「うん、あのね、自分で考えたんだけど、整形の後のおっぱいだと、いつも、ブラはオーダーでしょ、・・それだと、もったいないし、・・・家計にも響くから・・・シリコン、取っちゃった・・・いまは自前だけのおっぱい・・」
「家計、やり繰りしているの?」
「うん、一応、幸雄さんから任されてるの・・」
「じゃあ、バーゲンにもいくんだ・・」
「うん、・・少しでも、安いものを買おうと思って、何軒もみて回るんだけど、結局元の店に戻っちゃうことが多いけど・・」
「そう・・えらいわね・・」
「えらくなんかないよ・・身寄りのないあたしをこんなにも愛してくれてるんだもの・・・・それに、子供もできるし・・・これから、お金、一杯かかるから・・」
「兄貴・・結婚、遅くなっててよかったね、こんな良い子にめぐり合えて・・・大事にしなくっちゃあ・・」
「ああ、わかってるよ・・・」
幸雄は照れていた。しかし、沙羅はまだ、14歳、早生まれの3月が誕生日だった。
結婚できるまで、一年以上もあった。
7月出産予定だから、どうするつもりか聞いてみた。
返事は母に頼んでみる、とのことだった。
なるほどと思った。父でさえ牛耳っている母を味方につければ、と思った。
紗希も母には随分助けられた。

二人は帰っていった。これからいろいろな問題も出てくるだろう。
なにしろ、高校生が子供を産むのだ、周りの目もある、眉をひそめる人もいるだろう、兄には兄の立場もある、こんなことを考えていたら、急に心配になってきた。
ちょくちょく顔を出さなきゃとおもったが、うるさい小姑のだけはならないと自分に誓った。

プロフィール

megumi2001

Author:megumi2001
仕事・家事・執筆・・・・忙しく動いています
家事は・・・新彼と同棲中・・・・なので
更新、遅れ気味で・・・

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